「カード払いにすればレシートは不要」は正確ではない
事業用のカードで給油するようにすると、経理はかなり楽になります。ただし、そこから一歩進んで「もうレシートは捨ててよい」と考えるのは危険です。
インボイス制度(適格請求書等保存方式)のもとでは、仕入税額控除を受けるために、原則として適格請求書等の保存が求められます。そしてカード会社が作成する利用明細は、この適格請求書の記載事項を満たしていません。
これは制度の設計上そうなっています。適格請求書に必要な記載事項には「登録番号」「税率ごとに区分した消費税額等」などが含まれますが、カードの利用明細はカード会社が作る書類であり、給油したサービスステーションが交付する書類ではないからです。
何を保存すればよいのか
給油の場面で受け取る書類は次のように整理できます。
| 書類 | 誰が出すか | 保存書類として有効か |
|---|---|---|
| 給油時のレシート | サービスステーション | ◯ 適格簡易請求書として有効 |
| カードの利用明細 | カード会社 | △ 単独では要件を満たさない |
| 帳簿 | 自社 | ◯ ただし原則は請求書等とセット |
サービスステーションのように不特定多数に販売する事業では、記載事項を一部簡略化した**適格簡易請求書(簡易インボイス)**の交付が認められています。給油時に出てくるレシートがこれにあたります。「簡易」という名前ですが、保存書類として問題なく有効です。
確認すべきは登録番号
レシートを受け取ったら、登録番号(Tから始まる13桁)が印字されているかを見てください。登録のない事業者からの仕入れは、原則として控除の対象になりません。大手系列のサービスステーションであれば通常は記載がありますが、確認する習慣はつけておくとよいでしょう。
少額特例に該当すれば話が変わる
ここが実務上いちばん効くポイントです。
一定規模以下の事業者については、税込1万円未満の課税仕入れであれば、適格請求書の保存がなくても、一定事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除ができるという特例があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象事業者 | 基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下 |
| 対象取引 | 税込1万円未満の課税仕入れ(1回の取引単位で判定) |
| 必要な対応 | 一定事項を記載した帳簿の保存のみ |
| 適用期間 | 2029年9月30日まで |
給油1回あたりの金額を思い浮かべてください。乗用車やバンであれば、1回の給油は多くの場合1万円未満に収まります。該当する事業者にとっては、給油の大半がこの特例の範囲内ということになります。
この場合、カードの利用明細に「いつ・どの車で・どこで・いくら」が並んでいれば、それをもとに帳簿を作れば足ります。レシートを一枚ずつ回収して保管する運用は不要になります。
結局、カード化で何が変わるのか
整理すると、こうなります。
| 作業 | 現金・立替の場合 | 事業用カードの場合 |
|---|---|---|
| 誰がいつ給油したかの把握 | 本人の申告に依存 | 明細に自動で記録される |
| 金額の集計 | 手作業で転記 | 明細がそのまま集計表になる |
| 立替金の精算 | 毎月発生 | 不要(口座から自動引落) |
| レシートの保存 | 原則必要 | 原則必要(少額特例に該当すれば不要) |
4行目だけは、支払い方法を変えても自動的には消えません。消えるのは上の3行です。
言い換えると、**カード化の価値は「保存義務からの解放」ではなく「集計と精算という毎月の反復作業からの解放」**にあります。ここを正しく理解しておくと、導入後に「話が違う」とならずに済みます。
なお、少額特例に該当する事業者であれば、結果として4行目も不要になります。自社が対象かどうかを一度確認しておく価値は大きいはずです。
まとめ
- カードの利用明細だけでは仕入税額控除の要件を満たさない
- 原則は給油時のレシート(適格簡易請求書)を保存する。登録番号の有無を確認する
- 少額特例に該当すれば、税込1万円未満の給油は帳簿の保存のみで足りる
- カード化で確実に消えるのは、集計・立替・精算という毎月の作業
勘定科目や仕訳の具体例はガソリン代の勘定科目と仕訳の記事にまとめています。